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復活なるか


by t-mac
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心配の種ウイルス

ウイルスを作成する際、大元はトランスフェクションから始まる。ウイルスゲノムの全長を含むプラスミドDNAを制限酵素で切り出し、ウイルスの遺伝子だけを293と呼ばれる細胞株に導入し、細胞の中でめでたく複製および遺伝子発現に成功したものがウイルスとして出てくる。

そうして第一段階で回収されてきたウイルスを種にして増やすことも可能だけど、複製能を獲得してしまった変異体や、何らかの原因により発現カセットに異常を来してしまった変異体が混入してしまう可能性がある。

短期で細胞株に導入するだけのような実験ならばそれでもいいかもしれないが、動物実験に使用したり、実験的とはいえ治療用に使用することを想定していた場合、通常もう一段階か二段階のクローニングを重ねる。

といってもトランスフェクションで出てきたウイルス粗液でプラークを作らせる、といった単純な作業。慣れないとこのプラークもウマくいかなかったりするのだけど、それはまた別の話。一つ一つのプラークは事実上複製可能なクローンであることを意味している。よって、複数のプラークを突いてウイルスを回収した後、それを小規模で増やし、確認作業を行う。

293から複製能を取り戻してしまう様な変異体もこの時点では混入している可能性があるが、確認作業で目的遺伝子の発現が確認できれば、その可能性はほぼ除外できる。一方、発現カセットに何らかの変異が生じたりしていた場合、その確認はそう容易ではない。

そんな目的でここ数週間小規模のウイルス増殖とDNA調製を繰り返している。ウイルスだけを単離するには作業が煩雑なので、293細胞に感染し、増殖後にDNAを回収する。Hirt DNAと呼ばれるこの方法、少々手間はかかるものの、上手くいけば精製ウイルスに劣らないDNAを調製できる。プラスミドDNAを大腸菌から回収・調製するのと同様、細胞のゲノムDNAと一緒に溶解し、塩により細胞DNAとタンパクを共沈させ、上澄みに残った低分子量のDNA(=ウイルスDNA)をエタ沈するのが基本的な手順。

並行して増やしているウイルスの一つはこのHirt DNAでバッチリ確認できたので、後は途中まで増やしておいたクローンを更に増やすのみ。ところが、残りのウイルスがここまでどうしてもうまくDNAを調製できず、できても結果がハッキリせずにここまで限りなくグレーゾーンだった。過去ウイルス増殖の途中で変異体を拾ってしまったことが何度かあり、また変なのを拾ってしまったかとドキドキもんだった。

今日、何とか確認作業で満足のいく結果が出て一安心。これでバケーションから帰って来たボスにも情けない報告をしないで済む、かな。構造が構造なだけに、ちょっと心配なんです。
by tomo_macintosh | 2006-08-02 17:07 | しごと